第17話 次なる材料へ
森の回廊を抜けると、そこは白い砂浜が広がっていた。
波打ち際まで続いていたパヴェの道は、なんとタートルバックに向かって、真っ直ぐに延びていたのだ。
どうやら、潮が引けて道が現れたようだ。
ナリトは海のパヴェ道を進んだ。
パヴェ道は街の中で幾つにも別れ、石作りの建物には、木々が絡みつくように生い茂っていた。
建物には看板が掲げてあるが、どれもさびれていて、店が開いているようには見えなかった。
道を挟むように、さまざまな店が立ち並んでいる。
ある一本の道が、螺旋状の坂となって上まで伸びていて、その天辺には大きな屋敷が立っていた。
しばらく街の中を歩いていたが、人とすれ違うことはなく、いるのは、道端や建物や木の上などに寝ている猫だけだった。
「ナリトさん、おかえりなさい。」
声が聞こえた方を見ると、そこには、茶トラの猫がいた。
ナリト
「ん!?」
よくみると首輪に掴まっているユフィリーが猫の背中にちょこんと座っていた。
ナリト
「おおっ!ユフィリー!」
ユフィリー
「どうでしたか?材料は見つかりましたか?」
ナリト
「笹吹きは手に入れたよ。」
「それよりも、レオナルドさんはどこにいる?」
ユフィリー
「ボクについてきてください。」
そう言うと、茶トラの猫が、螺旋状の坂上に向かって歩き出した。
ナリト
「ここには人は住んでいないのかい?」
ユフィリー
「ここは、職人が住む街、人は住んでいません。」
ナリト
「えっ!?どういう意味?今、職人が住んでいるって。」
ユフィリー
「ここに見知らぬ者が迷い込んできても、誰もしゃべるヤツがいないから、ただの野良猫が住む廃墟に見えるだろうね。」
「ここはそうやって、技術や知識を守ってきた街なんだってさ。」
「ここにいる猫たちが職人さんなんだよ。」
ナリト
「なるほど。そういうことね。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~
庭のテラスで丸くなって寝ている黒猫がいた。
ユフィリー
「レオナルドさ~ん、帰ってきましたよ~。」
ナリトを見て、
レオナルド
「おかえりなさい。どうでしたか?」
ナリト
「” 笹吹き ”は手に入れました。」
「あと、” パーフェクトジュエリルの粉 ”は、あったのはあったんですが・・・」
レオナルドにオークションまでのいきさつを話した。
レオナルド
「そうか。それは残念だったな。」
ナリト
「でも、見てください。」
ナリトはバッジを付け、クマのジュエリルに変身した。
ユフィリーが二人になった。
ユフィリー
「あらま!?」
ナリト
「ジュエリルになることができます。」
レオナルド
「それは彫金アカデミア用に作ったバッジだから、残念だが、 それではジュエリルワールドに入ることは出来ない。」
ナリト
「これも、あなたが作ったのですか?」
レオナルド
「あそこの校長に頼まれてね。」
ナリト
「ジュエリルリングが作れる唯一の鋳造職人ってホントですか!」
レオナルド
「そうだ。しかし、もうむやみにリングは作らない。NEO-KARMAREYとしての逸材かどうかを確かめるまではと、ガウディたちと決めたのさ。」
「キミの、いやナリトの本気度は見せてもらったよ。ご褒美をあげないとね。」
レオナルドからマスターストーンをもらった。
マスターストーンを手に入れた!
ペンダントトップのワックス原型制作の知識が刻まれた叡智である。
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指定された寸法通りにワックス原型を完成させよ!
今回の課題 シンメトリーに見えるようにデザインを彫り上げること。 指定された寸法通りにワックス原型を作ること。 ワックスペンを上手く使いこなし、繊細な盛り付けデザインを完成させること。 用意するもの ...
続きを見る
ユフィリー
「あの~レオナルドさん。」
レオナルド
「なんだい?」
ユフィリー
「もしかして、ボクのスキルマスターになるための課題はここで終わってしまうんでしょうか?」
レオナルド
「大丈夫だよ。本人が知ってしまったところで、キミはキミの課題を最後まで全うすればいい。」
ユフィリー
「本当ですか!ああ、良かった。」
レオナルド
「よし、それでは、粉はちょっと後回しにして、” 奇跡のDNAの一部 ”を先に手に入れるとしようかな。」
「ガウディがいる丸太小屋からさらに西へと、パヴェの回廊を進んでいくと、かつて、カルマレイ族が暮らしていた遺跡が残っている。」
「今はそこに、彼らたちが暮らしているんだ。」
「しかし、キミがいったところで、彼らは相手にはしないだろう。」
「だから、今回は私も同行させてもらうよ。」
第18話 遺跡の住人
ジュエリルとなったレオナルドとユフィリーを肩に乗せたナリトは、ガウディの丸太小屋の前にいた。
扉をノックしたが、返事はなかった。
ユフィリー
「いないようですね。」
レオナルド
「どうやら出かけているらしいな。」
「仕方ない、ガウディなしで行くか。」
ナリト
「なぜガウディさんの小屋に寄ったんですか?」
レオナルド
「あやつは、彼らと仲がいいんだよ。」
「この周りを見てみなよ。」
「彼らをここに呼んで、アクセサリーのモデルにしているくらいさ。」
周りには、動物たちのワックス原型やシルバーアクセサリーが散らばっていた。
「あやつは、私たち動物たちの心を掴むのが上手いんだな。」
「まあ、私もその掴まれた一匹だったんだけどな(笑)」
「また今度、ガウディとの冒険談でも、ゆっくりと聞かせてやろう。」
「さて、先を急ぐとしようか。」
舗装されていたパヴェの道が進むにつれて石が剥がれ、そこから草木が生えだし、道はデコボコになっていく。
ようやく、森を抜け出ると、そこは崩れかけた建物があちこちに立ち並ぶ遺跡がある場所だった。
どの遺跡にも蔦が絡まり合って、中には木が生えて自然と同化している建物もあった。
ナリト
「ここにかつてカルマレイ族が住んでいたのか。」
建物の横をなにかが横切った。
ユフィリー
「なにかがボクたちを監視しているような視線を感じるんだけど。」
ナリトたちは、奥の寺院らしき遺跡へと向かおうとした時、
?
「これ以上、ここへ入ってきてはいけない。」
「ここから立ち去れ。」
「ここはお前らが来るところではない。」
「帰れ!」
完全に回りを包囲されたようだ。
森の茂みから、幾つもの目がこちらを凝視しているのだ。
レオナルドがナリトの肩から飛び降りると、まばゆい光とともに、黒猫へと戻った。
レオナルド
「私もキミたちと同類。しゃべる動物だよ。」
茂みから、一匹の狼が現れた。
狼
「いや、おまえは違う!人間と一緒にいるではないか!」
「人間は我らの宿敵」
レオナルド
「それは本心かい?」
狼
「どういうことだ!?」
レオナルド
「ガウディだよ。」
狼
「あの方は特別だ。」
「なぜ、おまえがあの方を知っているんだ!?」
レオナルド
「私も仲間だからさ」
森の茂みから、様々な動物たちが、ゾロゾロと出てきた。
年老いたキツネが、 ナリトの前に近づいてきて、
キツネ
「あの方は今、命の祭壇で、新しい命がやって来るのを見届けてもらっているんだ。」
「わしらの仲間が、生まれそうなんじゃよ。」
「少しここで待っていてくれないかな。」
ナリトたちは、待つことにした。
ナリトたちを囲むようにして、動物たちは座ったり、寝転んだりしていた。
キツネ
「あなた方も知っていよう。」
「遠い昔、人間が支配した世界で、人間たちと共に暮らそうと決意した動物たちがいたことは。」
「しかし、その人間のおぞましさを目の当たりにした彼らは、引き返すことも出来ないまま、人間との会話を閉ざし、ひっそりと、怯えながら、生きなければならなくなった。」
「それでもなんとか動物同士が助け合いながら、生き延びることができていたんだ。」
「しかし、その動物たちも、種族の言葉でしか話さなくなってくると、違う種族同士で権力争いが起きるようになってしまった。」
「強いものが、弱い者を食らって生きていく弱肉強食の世界。」
「絶滅してしまう種族もいたが、それでもなんとか、自然界の秩序は保たれていたんだ。」
「我々はそれで良しとした。」
「既に人間の言葉を忘れる者も出てきていたし、共存共栄の心など、口にする者などいなくなっていたからな。」
「そんなとき、あの方が現れたんだ。」
「我々に忘れかけていた生きる希望を思い出させてくれた。」
「そして、この地にようやく辿り着くことができたんだ。」
「あのガウディという人間は、我々にとっては、神のようなお方なのだよ。」
「だから、あの方が大切にしているこのカルマレイの遺跡を、他のやつらに汚されないよう、我々がお守りしているんだ。」
ガウディ
「生まれたぞ~」
向こうの遺跡から、ガウディの声が聞こえてきた。
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