序章6~彫金に導かれし者

第10話 ジュエリルリング

一羽の鷹が、森のパヴェ回廊を南に向かって飛んでいた。

それは、ダリだった。

クマになったナリトを背中に乗せて、颯爽と空を飛んでいたのだ。

ダリ
「ジュエリルリングとは、ジュエリルワールドとつながるための指輪ってことは知っているよね。」

「それを身に付けた人間や動物は、命を宿したアクセサリーに変身でき、それをジュエリルと呼んでいる。」

「ジュエリルには、大地系のグランドジュエリル・海洋系のマリンジュエリル・大空系のスカイジュエリルに大別されているんだ。」

「私は見ての通り、スカイジュエリルだね。」

「そして、その動物のDNAによって、その者の特徴を使うことができるんだ。」

「このように、空を飛んだりね。」

「キミの付けているものも同じさ。」

「それは、アカデミア用に作ったバッジタイプだけどね。」

「カルマレイ族は、知っているかい?」

「彼らはジュエリルリングを使わなくても、ジュエリルに変身できる特殊な能力を持っていたんだ。」

「その変身した姿を、” パーフェクトジュエリル ”と呼んだのさ。」

「このパーフェクトジュエリルから削り取った粉っていうのが、これから私たちが手に入れようとしている材料ってわけさ。」

「カルマレイ族はもうこのドリームハーフにはいない。」

「だから、その粉は、とても貴重なんだよ。」

森が終わると、そこには砂漠が広がり、その中に一直線に延びるパヴェ道が続いていた。

その先には、蜃気楼となり揺らめく街があった。

ダリ
「あそこが商人の街” プランハーツ ”」

「さてと、ちょっと歩くけど、ここで降りるよ。」

ダリは、森の回廊と砂漠の分かれ目となる入り口あたりの森の中に降りていった。

ダリ
「ここからはバッジを外してくれ。」

「これからいく街はちょっと野蛮なヤツもいるからね。ジュエリルなんかでいたら、なにされるかわからない。」

ナリトはバッジをはずすと、体が光り輝きながら、みるみる元の姿に戻っていった。

ダリも、目を閉じた。

同じように、体が光り輝いたかと思うと、みるみる姿が変わっていった。

それを見たナリトは驚いていた。

ダリ
「以外だったかい?ボクはキミと同じ人間なんだよ。」

第11話 プランハーツ

今まで訪れた雰囲気とはちがい、随分と賑やかなところにやってきた。

人間や動物など様々な生き物たちが行き交っている。

ナリト
「賑やかな街ですね。」

ナリトたちはその街の中心にある泉まで辿り着きました。

そこは、また格別に賑わいを見せています。

「さあさあ、” クリエグ ”諸君たちよ!」

「ここはスキルを求めて、学びある企画に参加できるプランの泉だ~」

ナリト
「クリエグって?」

ダリ
「クリエイターを目指す卵、クリエイター・エッグ、略して、クリエグさ。」

ナリト
「なるほど。」

泉の前にはズラリと立て札が並び、その札にはなにやら文字が書かれいる。

「参加者求む!~~~企画の内容はこちら」

それぞれの立て札の前にクリエグたちがひしめき合い、そこここで、様々な企画の話が飛び交っているのだ。

ダリ
「このプランの泉では、かけらや御珠やマスターストーンを使って作り出した企画に参加することができるんだよ。」

ナリトは耳をすまして聞いてみた。

クリエグたち
「ワックス初心者必見の原型制作が学べる企画があるってさ!」
「こっちは、ロウ付けが学べる企画があるぜ!」
「商品価値があがる石留めスキルが学べるってよ~」
「見てみて、ブランドの立ち上げ方だってさ~」
「クリエグだったら、地金よりワックス覚える方が先かな。」
「仕上げ研磨は必須スキルだってよ。」

クリエグたちが、あれこれと企画について話している。

ダリ
「キミは、どのくらい持っているんだい、かけらや御珠?」

ナリト
「いくつか持っています。」

ナリトは、持っていた収納バッグを開け、中身を見せた。

ダリ
「おっ、これってマっ」

ダリは言おうとした言葉を吞み込み、真剣な面持ちであたりを伺った。

二人の周りではクリエグたちがあちこちでガヤガヤと話している。

ダリは安堵の笑みを浮かべ、

ダリ
「よく見せてくれないか?」

ナリト
「えっ、あ、はい。構いませんよ。」

ナリトはバッグをダリに渡した。

ダリはささやき声で、

「マスターストーンだね、これ。」

ナリトも小声で、

ナリト
「どうして小声なんですか?」

ダリ
「狙われないようにさ。」

ダリはそう言いながら、バッグの中身を見ている。

ダリ
「ほう~!面白いもの持ってるじゃないか!御珠の続きものか。」

それは、ガウディからもらった指輪のワックス原型制作が映像化されたスキルの御珠だった。

ダリ
「残りの御珠が揃えば、マスターストーンだよ、これ。」

「狙われないようにしなくちゃな。」

ダリは笑いながら、ナリトにバッグを渡すと、歩き出した。

 

泉の広場を越えると、だんだんと建物が減り、人も減っていく。

ナリト
「あの~」

ダリ
「なんだい?」

ナリト
「この街は野蛮な奴がいるとか、さっきは” 狙われないように ”って言ってましたけど、誰に狙われるのですか?」

ダリ
「この街は商人の街なんだ。」

「プランの泉ではクリエグ相手に企画を、いや要するにスキルが売り買いされているんだよ。」

「そのスキルをどうやって集めてくるかわかるかい?」

ナリト
「ん~」

ダリ
「スキルハンターさ。」

「非公認のスキル探索屋だよ。そんなやつらがこのドリームハーフにはたくさんいるんだ。」

ナリト
「へぇ~」

ダリ
「やつらは徒党を組んでスキルを探している。」

「その集団も様々でね、まともな連中もいれば、ちょっとヤバい連中もいるんだよ。」

「だから、” すごいスキル持ってます!”なんて声高らかに言おうものなら、すぐさま奪いに来るからね。」

「気をつけて、あっ!見えた。」

ダリは急に立ち止まった。

ナリト
「わぁ!ハンター出ました!?」

ダリ
「えっ?どこ!」

ダリは身構え辺りを見回したが、2人以外誰一人いなかった。

ナリト
「いや、見えたって言うから、てっきり」

ダリ
「フッ、ハッハハハ〜ゴメンゴメン」

「あれだよ、あれ。あそこのオークション会場の目印が見えたんだよ。」

二人の目の前に砂丘が現れ、砂丘のてっぺんにものすごく大きなハンマーが突き刺さっていたのだ。

ダリ
「あそこがオークション会場だよ。」

ナリト
「もう、びっくりさせないでくださいよ~」

入り口まで来たナリトたち。

しかし、周りは静まり返っていた。

建物が立つ向こう側には海が広がり、空は夕焼け色に染まっていた。

扉は閉まっていて、そこに看板が立てかけてあった。

看板には、こう書かれていた。

” 次回のオークションラインナップは・・・糸ノコのスキルのかけら・自作集塵ボックスの書・そして、パーフェクトジュエリルの粉です!お楽しみに!”

ナリト
「ありましたね。」

ダリ
「ああ。」

ダリは腕組みすると、

「さてと、実はここから先が問題なんだよ。」

「多分、この粉を狙っているライバルは多い。」

「落札額は、けっこうな額になることが予想されるんだ。」

「さて、私たちがどうやってその軍資金を調達するかだな。」

ぐ~~う

ダリと目が合った。

ナリト
「す、すいません。」

ナリトのお腹がなったのだ。

辺りはだいぶ薄暗くなっていた。

ダリ
「あっはっは、スマンスマン。今日は大分歩かせてしまったからね。」

「街に戻って、食事をしながら、考えることにしよう。」

第12話 ひらめきは突然に

辺りはすっかり暗くなっていた。

街の繁華街に明かりが灯り、今宵もまたプランハーツでは賑やかな夜が始まろうとしていたのだ。

ナリトたちは、とある酒場にいた。

二人は酒を交わしながら、食事にありついていた。

ダリ
「ナリはなぜ、ジュエリルワールドに行きたいんだい?」

ナリト
「う~ん・・・それが、まだわからないんです。」

ダリ
「あっ! ナリと呼ばせてもらってもいいかな?」

ナリト
「エッ!? ええ、もちろんです。」

ダリ
「ナリとダリ、なんか兄弟みたいだな。私もダリでいいからね。」

ナリト
「はい!ダリさん」

「・・あっ!」

ダリはニッコリと笑った。

ダリ
「そっか~、ナリはまだ行きたい理由が見つからないのかぁ・・」

「ちょっと、私の話をしてもいいかな?」

ナリト
「ええ、もちろんです。」

ダリ
「人は誰でも自分の使命というものを持っていると思うんだ。」

「その使命がなんなのか、みんな普段の生活をしながら、探している。」

「そんなものがあることすら忘れて、彷徨い続けている人が多いけどね。」

「でもある時、ふっと視界が開けて、自分の使命が見えたりするんだよ。それを掴もうとした瞬間、またいつものように霧に包まれて先が見えなくなってしまうんだけどね。」

「そんなのの繰り返しさ。」

「こんなことを感じて生きている者でさえ、モヤモヤとした霧の中で暮らしていれば、時には自分がどうしたいのか分からなくなり、なにかにスガリたくなることもある。」

ナリト
「他人の生き方が良く見えたりするもんなんですよね。」

ダリ
「でもね」

「ナリの生き方と他人の生き方は違うんだよ。」

「他人を羨んでも仕方ないし、ずっと真似しててもしょうがない。」

「だからと、いざ自分が決めた生き方を始めようものなら、その生き方を否定的に言うものが現れたりする。」

「” 自分だったらそんな生き方はしない、だからあなたもやめなよ ” そんなふうに色眼鏡でナリを見てくるんだ。」

「自分の色に染めようと必死なんだよな。」

「群れは強い、皆で無責任に吠えていられるからね。」

「自分と向き合わずに他人の助言に流されるままに生きてきて、群れの中で” あの時こうしていればと ”タラレバ語っている、そんな虚しいことってないよな。」

「今はまだ思うような結果には結びついていないとしてもだよ、その使命に向かって情熱的に活動している人の方がよっぽど尊敬に値すると思うね。」

「私はそんな人を応援したくなるし、自分も常にそうありたいと思って生きている。」

「自分で新しい何かを発見する活動的な生き方と、
言われたことだけを繰り返す惰性的な生き方、
オマエならどちらを選ぶって言われたら、ナリなら私がどちらの生き方を選ぶか分かるだろ。」

ダリはグラスの中身を一気に飲み干し、おかわりを頼んだ。

「じつはね、ナリ。」

「私はジュエリルワールドでスキルのかけらを探しているんだよ。」

ナリト
「そうでしたか。」

ダリ
「でも本当はスキルじゃなく、自分探しの旅をしているんだと気付いた。自身のアイデンティティとは何かとね。」

「ナリもこうやって、手探りでも行動に起こしていけば、自分の使命、本当にやりたいことってのが、きっと見つかるはずだよ。」

「人生という霧の中から、一瞬のひらめきを掴み取るんだ!」

ちょうどそこへ店員が注文を運んできた。

ダリはグラスを受け取ると、上機嫌に笑みを浮かべ、グラスを傾けた。

ダリ
「未来のことは、歩きながら考えればいい。
大切なことは、歩き続けること。そして、変わり続けること。
変化しないものに、進化はないんだよ。」

ナリトも一口飲むと、

ナリト
「この世界で出会った皆さんのおかげで、スキルを学ぶということの意味がなんとなく見えてきました。」

「自分の使命はまだハッキリとは分かりませんが、今、ふとやってみたいってことが浮かんできました。」

「それは・・・見つけたかけらや御珠のスキルを覚えて・・・」

「アクセサリーが作れるようになりたい。」

「そして、恥ずかしいですが、自分のブランドが持てたらいいなと思っています。」

ダリ
「いいじゃないか!」

「覚えたスキルで・・・アクセを作って売る。」

そう言いながら、

「・・・んっ?・・売る!?」

表情が険しくなったかと思うと、

「その手があったかっ!」

何かを思い出したように、ダリは大声を上げた。

店員や周りにいた客たちがこちらを訝しげに見ていた。

そんなことはお構いなしに、ダリはナリトに語り出す。

ダリ
「プランの泉ってのがあっただろ!」

「あの泉で、企画を募集していたのを覚えているか?」

「このプランハーツでは、企画に参加することともう一つ、企画を提案することもできるんだった。」

「すっかり忘れてたよ!」

ナリトのきょとんとした顔を見たダリは、

「あっ!すまんすまん。」

気持ちの高ぶりをおさえながらダリは話を続けた。

「どういうことかと言うとな、手に入れたスキルのかけらや御珠・マスターストーンを使って、自分で企画を作り出すんだ。」

「そして、作った企画を” 企画評議委員会 ”という所に提出する。」

「見事審査に通過すれば、自分の企画をあの泉で販売できるようになれるんだ。」

「あとはクリエグたちに参加してもらい、オークションの軍資金を手に入れるってわけさ。」

「これを利用する手はないだろ。」

「しかし、肝心なのは企画の内容だ。しっかりした企画を作らないと、クリエグは集まらない。」

「いや、審査さえ通らないかもな。」

「そこでだ!」

「ナリが持っているスキルの御珠があったろ!あの続きもののやつだ。」

ナリト
「ワックスの指輪制作の映像のやつですよね。」

ダリ
「あの続きを手に入れてまとめ上げれば、売れる企画が出来そうなんだ。」

「あれは、どこで手に入れたんだい?」

ナリト
「ガウディというジュエリルにもらったかけらを合成してもらいました。」

ダリ
「あの、ガウディか!」

ダリはグラスを持ち、立ち上がった。

「よ~しっ!これで道がひらけた。」

ダリはニコリと微笑みながら、グラスを持ち立つようナリトに促すと、

「ひらめきを与えてくれたナリにはご褒美をあげよう!」

そう言ってポケットから3つの「スキルの御珠」を取り出し、ナリトに渡した。

「前途あるクリエグに!カンパ~イ!!」

ダリからの贈り物

スキルの御珠を手に入れた!

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