第8話 それいけ!ユフィリー
阿吽の問題に正解し、無事、入校証バッジをもらったナリト。
バッジを胸に付けた瞬間、全身がまばゆい光に包まれた。
あまりの眩しさで目を閉じた。
しばらく体が宙に浮くような感覚に襲われた。
感覚がおさまり、目を開けてみると、
ナリトは、なんとクマのジュエリルになっていたのだ。
クマのナリト
「ユフィリーそっくりじゃないか!?」
門が開いた。
阿吽
「ようこそ!彫金アカデミアへ」
小さかった鳥居を見上げながら、クマのジュエリルとなったナリトはゲートを潜り抜けた。
目の前にはガラスドームが其処此処に並び、そのドームの中心から伸びる大木の上には、城の天守閣や神社のような建物が建っているのだった。
クマのナリト
「ここが、彫金アカデミアか。」
その中でもひときわ大きい建物からは、ガヤガヤと「多分、生徒たちなのだろう」
ナリトと同じクマのジュエリルたちが次々に建物の中に入っていくのが見えた。
「ほら、キミも急がないと!」
振り向くと、そこには黒縁の大きな眼鏡をかけたリスのジュエリルがいた。
黒縁眼鏡のリス
「今日は、特別な講師をお招きしているのだぞ。」
クマのナリト
「えっ? あぁ、はい。」
すると突然、鐘の音が鳴り響いた。
黒縁眼鏡のリス
「ほら!合図がなってしまったぞ!早く行きたまえ!」
ここの講師なのだろうか。
リスは、ひょいっと木の枝に駆け上ると、枝をつたって、先程生徒たちが入っていった建物へと消えていった。
ナリトもリスの後を追い、建物が並ぶガラスドームへと向かった。
ドームの中は整備された庭園が広がり、中心の木の根元には扉が、そして扉の横には▲ボタンが付いている。
どうやら、エレベーターになっているらしい。
登りきった先は、建物から張り出た縁側部分につながっていた。
縁側はとても広く、ここから辺り一面が見渡せる。
建物の中から先程のリスの声が聞こえてきた。
黒縁眼鏡のリス
「我が彫金アカデミアの校長のお話ですが、今日も多忙のため欠席となりますので、」
「続きまして・・・」
クマのナリトは建物へと入っていった。
黒縁眼鏡のリス
「今日は、南の都" プランハーツ "から、素敵なゲストをお招きしました。」
「ダリくんです。」
壇上に上がるジュエリルの姿が見えた。
カウボーイハットにバンダナを首に巻き、マントを羽織った出で立ち。
容姿は何かの鳥?
そう、鷹のジュエリルである。
ダリ
「はじめまして。」
「ここにいる皆さんは、スキルマスターを目指す方たちも多いと聞きます。」
「そこで皆さんがスキルを持つ者としてふさわしい方たちなのか、私がテストをします。」
「私が出す問題に正解した者には、素敵なプレゼントを差し上げます。」
会場がどよめいた。
第1問
ダリ
「デザインがまったく同じアクセサリーを2個以上作りたいときはどうしますか?」
ダリは会場を見渡して、
ダリ
「じゃあ、そこの方、2個以上量産するにはどうすればいいですかね。」
生徒
「え~と、ゴム型を作って複製すればいいのではないでしょうか。」
ダリ
「そうですね。多くのアクセサリーブランドが取り入れているロストワックス製法を使った量産方法ですね。」
「例えば、この量産方法を使えば、
両耳用のピアスや、ネックレスチェーンやブレスレットのコマなど、
同じパーツのものを2個以上必要なアクセサリーを作る場合にとても便利なんです。」
「そこで第一問目の正解者には、この量産についてのスキルのかけらをプレゼントしましょう。」
「それでは、問題です!」
問題
ハードワックスの中で一番硬いのは何色?
- ブルー
- パープル
- グリーン
問題正解でもらえるスキルのかけら
量産用の原型を作る上でのルールとは?
第2問
ダリ
「指輪を販売する上で厄介なことって何だかわかりますか?」
会場がざわつき出し、所々でその返答の声があがる。
「そうですね!サイズがあるってことです。」
「人間の指は、性別・体格などによってサイズがバラバラです。」
「1つのデザインの指輪を販売するだけでも、その様々な方たちに合うサイズの指輪を何個も用意しなければいけません。」
「この、1つのデザインに対してサイズをいくつか用意することを」
「号数展開と呼んでいます。」
「第二問目の正解者には、この号数展開についてのスキルのかけらをプレゼントしましょう!」
「では、問題です!」
問題
修正・盛り付けがやりやすいハードワックスは何色?
- ブルー
- パープル
- グリーン
問題正解でもらえるスキルのかけら
号数展開を想定した指輪の原型作りとは?
ダリ
「受け継がれし記憶を我が内におさめるは行動あるのみ、さすれば道は照らされるであろう。」
「それでは皆さんの幸運を祈ります。」
ダリは壇上を後にした。
第9話 提案
クマのナリトは、マスタールームという部屋の前に立っていた。
ドアをノックした。
トントン
「どうぞ」
クマのナリトは中に入った。
部屋の奥が間仕切りで仕切られていて、そこから、先ほど会ったリスが出てきた。
黒縁メガネのリス
「どうした?」
クマのナリト
「あの~じつは、」
黒縁メガネのリス
「問題の答えなら教えられんよ。」
クマのナリト
「いや、そうじゃなくて、あの~」
「じつは~” ジュエリルワールドの海から採れた笹吹き ”についてお聞きしたいことがあって・・・」
黒縁メガネのリス
「 はあ!?どうしてだい?」
クマのナリト
「それは・・・」
?
「ジュエリルリングを作る材料だよね?」
間仕切りされた奥の部屋から声が聞こえてきた。
クマのナリト
「そ、そうです!」
奥の部屋から現れたのは、先ほど壇上で講演をしたダリだった。
黒縁メガネのリス
「ダリさんがわざわざ」
ダリはリスの言葉を制すように手を上げ、
ダリ
「ちょっと興味があります。」
クマのナリトに目で合図を送って、
ダリ
「続けてください。」
クマのナリト
「はい。じつはプランハーツにいるレオナルドって方に、ここでもらってくるようにと言われたんです。」
ダリ
「レオナルド!?」
黒縁メガネのリス
「あの伝説の鋳造師か!!」
「どこであったんだ!」
ダリ
「このドリームハーフでただ一人、ジュエリルリングを作れる者」
黒縁メガネのリス
「あいつの正体を知る者は少ない。」
「どんなヤツだった!」
クマのナリトは、レオナルドとの約束を思い出した。
” 私の正体は絶対に口外しないでくださいね。 ”
「どんなって言われても・・・」
ナリトは考えているフリをした。
黒縁メガネのリス
「おいおい、そいつは本物なのかい!?」
「そもそも、キミが言っていること自体・」
ダリ
「まあまあ・・落ち着いて。」
言葉に被せるようにリスをなだめた。
「それで、あとの材料は持っているのかい?」
クマのナリト
「いや、まだ持っていません。どうやって手に入れるのかさえ聞いていません。」
ダリは独り言のように、
「・・・たしか、” オークション ”の目玉が、" 粉 "だったような・・・リングの作り方は知っているが、作るところは実際見たことがないな。」
ダリ
「キミに提案してもいいかい?」
「私はこれから、プランハーツに戻るところなんだが、その街にオークションがあってね。」
「たしか、次のオークションの目玉が、” パーフェクトジュエリルの粉 ”なんだよ。」
クマのナリト
「そうなんですか!」
ダリ
「どうだい?」
「すべての材料を揃えるのを手伝ったら、レオナルドに会わせてもらえるかな?」
クマのナリト
「・・・本人に聞いてみないと。」
ダリ
「そうだよな。」
「じゃあ、そこまで連れてってもらえるかな?」
「あとは、レオナルドに決めてもらおう、私と会うかを。」
「どうだい、それで。」
クマのナリト
「えっ、まあ・・・」
ダリ
「よし!じゃあ、決まりだ!」
「それでは、まず、” ジュエリルワールドの海から採れた笹吹き ”だな。」
ダリはリスの方を見た。
黒縁メガネのリス
「えっ!いくらダリさんの頼みでも、スキルマスターでもない只の生徒に、貴重な材料を渡すわけにはいきませんよっ!」
ダリ
「じゃあ、私が借りるってことでは?」
ダリはリスをじっと睨みつけていた。
しばらく睨まれ続けたリスは、
黒縁メガネのリス
「ハアハアハア・・・わかりましたよ。」
「鷹が小動物を襲うハンターの目は反則です。睨まれた方は、生きた心地がしませんよ。」
「ダリさん、もう勘弁してください。」
ダリはクマのナリトを見て、にこっと笑った。
そして、思い出したように、
ダリ
「あっ、そうそう、講演での問題の答え、分かったかな?」
クマのナリト
「えっ、あ、はい。・・・どちらも" 緑 "ですよね。」
ダリ
「クマくん、こっち来て。」
ダリはクマのナリトがつけている胸のバッジにスキルのかけらをかざした。
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