第4話 彫金脳を鍛えろ!
その頃、彫金アカデミアでは、” メタルスキルマスター科 ”の講師、達磨フクロウのジュエリル” もずく先生 ”の授業が始まっていた。
ユフィリーはもちろんのこと、ナリトもそしてすべての生徒が皆、クマのジュエリルとなり、講義を受けていた。
もずく先生
「今日はね・・アクセサリー作りに必要な・・彫金脳について・お話します。」
ゆったりとした口調と独特な間をとって、まあるい体をユラユラと揺らしている。
もずく先生
「この彫金脳を手に入れれば・・・・」
ユフィリー
「先生?」
もずく先生
「・・・・」
片目を閉じたもずく先生はゆらゆらしている。
ユフィリー
「先生!?起きて!」
「フクロウは片目を閉じたまま寝れる特技を持っているんだよ。」
ユフィリーがナリトに説明していると、もずく先生の閉じた片目が開いた。
ユフィリー
「彫金脳を手に入れるとどうなるんですか?」
もずく先生
「ああ・・そうそう、彫金脳を手に入れれば、誰の手も借りずに皆さん一人一人で、いろいろなデザインのアクセサリーを作り出すことができるようになります。」
ユフィリー
「フクロウは夜行性だから、昼間のもずく先生はいつもこんな調子なのさ」
もずく先生
「さて・・・そもそも彫金脳って、一体どんな脳なのでしょう?」
もずく先生の片目が閉じそうになり、すかさずユフィリーは手を上げて答えた。
ユフィリー
「それは、頭の中でアクセサリーを自由に作り出せる思考回路のことです!」
もずく先生
「うむ。その・・とおり。」
「まあ話で・・聞くよりも、実際に映像を見たほうがイメージが・・掴みやすいでしょう。それでは・・・御珠の映像を見ながら、スキルとスキルのつながりを・・・考えてみましょうかね。」
「誰かカーテンを閉めてくれないかな。」
ユフィリーはカーテンを閉めると、教室は真っ暗闇となった。
すると、もずく先生の両目が光り出し、黒板を照らすと、映写機のように映像が流れ出した。
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もずく先生は語りだした。
もずく先生
「指輪やペンダントなどの様々なアクセサリーデザインはね、色々なスキルを使って作り出した結果なんですね。」
「そこでまずはそのスキルたちを分けて考えてみることにしましょうか!」
先ほどのマイペースな口調はどこへやら、饒舌で快活な口調へと変わっていた。
ユフィリー
「暗くしたからね。」
もずく先生
「え~地金製法の場合、大きく分けると9つのスキルに分かれています!」
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切る
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削る
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曲げる
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叩く
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くっつける
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成形する
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仕上げる
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宝石を留める
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彫る
「すべての作業で、道具を使っていきますので、
スキルを覚えるには=各スキルで使う道具の使い方を覚えること
という公式が成り立ちます。
それぞれのスキルを公式に当てはめていくとこんな感じになりますね。」
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切るスキル=糸鋸の使い方
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削るスキル=ヤスリの使い方
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曲げるスキル=ヤットコの使い方
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叩くスキル=木槌・金槌の使い方
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くっ付けるスキル=ロウ付けのやり方
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成形する・仕上げるスキル=リューターの使い方
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宝石を留めるスキル=石留め用道具の使い方
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彫るスキル=タガネの使い方
「さらに、それぞれのスキルを細分化していくと、糸鋸なら刃の付け方からはじまり、直線・直角・透かしなどの切り方、糸鋸で磨く方法など細かなテクニックがあります。
ヤスリならば、鉄工ヤスリやペーパーヤスリなどにスキルが細分化され、それぞれに使い方のテクニックがあります。
それ以外にも、様々なパターンのロウ付けや仕上げ研磨の方法、デザイン彫りなどのスキルがあり、そのすべてのテクニックを覚えることで、地金製法の知識が身につくのです。
どこの彫金教室でも教え方は違えど、ほぼ同じスキルを教えていきます。
ただし、これでは不完全なんです。
一つ一つのスキルを覚えましたが、まだバラバラで覚えた状態なんですよね。」
『いいかいナリトくん。』
ナリト
「はっ、はい!?」
突然自分の名が呼ばれたのでびっくりしてしまった。
もずく先生
『ここの作り方はね、この道具であのテクニックを使うといいよ、そしてその後は・・・』ってな具合に、丁寧に説明してあげれば、ナリトくんも教室では作ることができるでしょう!」
ナリト
「はっ、はい。」
もずく先生
「でもこの先ナリトくんは先生の助言など一切なしに、スキルを使いこなして思い描いたとおりのデザインを一人で作り上げることができますか?」
ナリトは首をかしげた。
「う~む」
もずく先生
「そうですね。答えは、ノーなのです。」
「なぜなら、『バラバラのスキルをどうつなぎ合わせれば、デザイン画や条件どおりのアクセを作り出すことができるのか』その作り方の段取りをナリトくん自身が組み立てられないからです。
”彫金脳”がまだ頭の中に作られていないからなのです!
この世にあるすべてのアクセサリーデザインは、スキルとスキルの繋がりで出来ています。
ここで切るスキルのこのテクニックを使って、この後にヤスリスキルのこのテクニックを使うと、こんなデザインになる。
さらには、これとこれをロウ付けしたら、こんなデザインになるはず・・・云々
このように、スキルの組み合わせからどんなデザインが出来上がるのか、そのパターンをいろいろと覚えて、さらにはその覚えたスキルパターンを組み合わせて、作り方の段取りを組み立てていかないと、アクセサリーは作り出せないのです。」
「この部分をどうしっかりと教えてあげられるかが、彫金教室の講師の腕の見せ所でしょうかね。
それぞれのスキルだけを教えて、『さあ先生のアドバイスどおりに作ってみよう!』では、なかなか独り立ちはできませんよ。
ナリトくん自身で作り方の段取りを組み立てられるようにならなければいけませんね。
スキル習得以上に、彫金脳をどれだけ使いこなせるかが地金制作にとって、とても重要なことなのですよ。」
もずく先生の片目が閉じ、映像が終わった。
ユフィリーはカーテンを開けると、真っ暗だった教室が明るくなっていく。
もずく先生はというと、またユラユラと体を揺らしていたのだった。
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