アクセサリーを販売するとなった時に、必ず聞くことになるフレーズがあります。
それは、「いくらで作れるの?」です。
例えば、お客さんがデザイン画を持ってきて、「このデザインと同じものが欲しいんだけど、いくらで作れそう?」と質問してくることがあります。
そんな時、電卓をカチカチカチッと叩いて、即座に見積もりを出してあげられるようになりたいですよね。
お客さんは、今答えが聞きたいはずです。
答えを聞いて予算に見合っていれば、その場でオーダー注文してくれるかも知れません。
「見積もりを後日お知らせしますので、しばらくお待ち下さい。」では、機会損失となってしまうかもしれませんね。
そうならないためにも、自分がこれから作るものが一体どのくらいの値段で出来上がるのか、その想定価格を求められるようにならなければいけません。
そこで今回は、ワックス原型の重さからシルバー・ゴールド・プラチナになった時の想定価格を割り出す方法と、ワックスからアクセサリーを作った場合の想定制作費の求め方を紹介します。
3面図からワックス原型の想定重量を割り出す。
3面図からワックス原型の重さをある程度正確な数字で知ることができます。
作る前の段階からワックスの重さを知ることができれば、そのデザインがいくらで作れるのか(制作費)を導き出すことが出来ます。
立体の体積の求め方はこちら
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立体の体積の求め方一覧表
立方体・直方体 体積 = たて × 横 × 高さ 三角柱・四角柱 体積 = 底面積 × 高さ 円柱 体積 = 半径 × 半径 × 3.14 × 高さ 円錐 体積 = 半径 × 半径 × 3.14 × ...
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3面図を見て体積を求める。
3面図を見て、一覧表に出ている立体に当てはまる形を探していく。
百合の紋章のデザインパーツは、形が複雑でどんな立体を当てはめていいか難しいところだ。
今回は分かりやすいようにざっくりと1つの立体「直方体」の体積から1/4分の体積を削り取ったことにして、その体積を求めることにする。
もっと正確な体積を出したい場合は、正確に計算できる立体の形にデザインを分解して、その分解した体積たちの合計から全体のデザインの体積を求めるようにしよう。
単位はすべてcm(センチメートル)に直して計算すること!
百合の紋章パーツの体積
たて × 横 × 高さ × 3/4
1.1 × 1.15 × 0.45 × 0.75 ≒ 0.43
約0.43cm³(立方センチメートル)
本体の体積は、全体のデザインを円柱の体積で求め、そこから内側の凹部分である円柱の体積を引くことにした。
本体パーツの体積
円柱の体積 = 半径 × 半径 × 3.14 × 高さ
0.9 × 0.9 × 3.14 × 0.47 ≒ 1.195(全体の円柱の体積)
0.6 × 0.6 × 3.14 × 0.35 ≒ 0.396(内側の円柱の体積)
1.195 - 0.396 ≒ 0.799
約0.799cm³
バチカンパーツの体積
バチカン(チェーンを通すパーツ)の体積は、デザイン全体の体積から、内側の貫通部分の体積を引きます。
バチカンの厚みはすべて0.8mmとすると、
三角柱の体積 = 底面積 × 高さ
1/2 × 0.2 × 0.4 × 0.6 = 0.024(全体の三角柱の体積)
1/2 × 0.2 × 0.24 × 0.42 = 0.01(内側の貫通部分の三角柱の体積)
0.024 - 0.01 = 0.014
0.014cm³
百合の紋章と本体とバチカンを合わせた体積
0.43 + 0.799 + 0.014=1.243
1.243cm³
求めた体積を使って重さを求める。
重さ = 比重 × 体積
ワックスの比重 = 1 なので、
ワックス原型の想定重量 = 1 (ワックスの比重)× 1.243(ワックス原型の体積)
約1.243gとなります。
ワックス原型から作りたい金属の想定重量を割り出す。
ワックス原型の想定重量が出たら、つぎにその重さからSV925・K18・Pt900などの※キャスト吹き上がり品の想定重量を割り出していきます。
キャスト吹き上がり品とは、キャストからあがったままの酸処理した状態のものです。湯口が付いています。
必須アイテム
デジタルスケール(携帯タイプ)
地金&WAX兼用地金やワックスの重さを量る以外にも、宝石のカラットを調べる時にも使います。
以下の3点があるデジタルスケールを購入すること。
- 0.01g単位で計測できるもの
- ct(カラット)測定が出来るもの
- 容器を置いてその重量を省いて0gから計測できるもの
金額を割り出すにあたり、絶対に必要となるアイテムです。
金属の比重表
この表から作りたい金属の比重を見つけて、これから出てくる計算式にその比重を当てはめて算出していきます。
金属 | 比重 |
ワックス | 1 |
銅 | 8.92 |
真鍮 | 8.5 |
シルバー(Sv925) | 10.4 |
シルバー(Sv950) | 10.5 |
純銀(Sv1000) | 10.5 |
ゴールド(K10) | 12.5 |
ゴールド(K14) | 13.2 |
ゴールド(K18) | 15.5 |
ゴールド(K24) | 19.3 |
ホワイトゴールド(K14WG) | 14.5 |
ホワイトゴールド(K18WG) | 16.5 |
ピンクゴールド(K18PG) | 15.5 |
プラチナ(Pt900) | 20 |
プラチナ(Pt950) | 21 |
プラチナ(Pt1000) | 21.4 |
step
1キャスト吹き上がり品の想定重量を割り出す。
キャスト吹き上がり品の想定重量 = ワックス原型の想定重量 ✕ 作りたい金属の比重
例題
例えば、作ったワックス原型をデジタルスケールで測ったら0.5gでした。
SV925のキャスト吹き上がり品の想定重量は
0.5g(WAX原型の重さ)✕ 10.4(SV925の比重)=5.2g
K18のキャスト吹き上がり品の想定重量は
0.5g(WAX原型の重さ)✕ 15.5(K18の比重)=7.75g
Pt900のキャスト吹き上がり品の想定重量は
0.5g(WAX原型の重さ)✕ 20(Pt900の比重)=10g
ワックス原型の想定重量が同じでも、作りたい金属が違ってくるとかける比重が変わり、重さも変わってしまいます。
実際は、キャスト吹き上がり品には、湯口が付いています。
これをニッパーで切断しますが、湯口が多少残ってしまうため、想定重量よりも、若干重くなります。
想定重量を自動計算してくれる便利なツール!
このツールを使えば、想定重量を簡単に計算できます。
素材を「ワックス」で選択、想定重量を入力、計算するボタンを押せば、一発算出!
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想定重量自動計算ツール
1gで作ったワックス原型をシルバー925で作ったら、何gになるのか? 10gのシルバー925の指輪を、K18で作り変えるとしたら一体何gになるのか? など、いろいろな地金の想定重量を一斉に算出できる便 ...
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step
2キャストのヘリを計算に入れます。
その外注先でちがいますが、ヘリは地金一律3%で計算します。
SV9255.2g(想定重量)✕ 1.03(ヘリ3%)≒5.36g
K187.75g ✕ 1.03(ヘリ3%)≒7.98g
Pt90010g ✕ 1.03(ヘリ3%)≒10.3g
これが、キャスト吹き上がり品の想定重量になります。
step
3求めた想定重量から、作りたい金属の想定価格を割り出す。
キャスト吹き上がり品の想定価格 = キャスト吹き上がり品の想定重量 ✕ 作りたい金属1gあたりの価格(※)
※この式に加工の工賃を含めるか含めないかで、計算が変わってきます。
さきほどの例題から
工賃を含めた銀1gあたりの価格を、仮に250円だとすると、
5.36g(SV925のキャスト吹き上がり品の想定重量) ✕ 250円(工賃を含めた銀1gあたりの価格)=1,340円
ゴールドの場合プラチナの場合
ゴールド・プラチナ1gあたりの価格は、田中貴金属のサイトに載っています。
※新しいページで開きます。
しかし、このまま使うことは出来ません。
もし、あなたがK18で作りたいのならば、K18の1gあたりの値段に変えなければいけません。
金は24分率になっています。 下の画像を見てください。
K18の金の割合は75%ですよね。
田中貴金属に掲載している金属価格は、金・プラチナともに100%です。
なので、本日の金1gあたりの価格に75%を掛けないと、K18の1gあたりの価格にはならないのです。
プラチナは1000分率なので、プラチナ1000=100%、プラチナ950=95%、プラチナ900=90%となります。
こちらは簡単ですよね。
さて、それぞれの作りたい金属1gあたりの価格は、これで求めることができますよね。
それでは、先ほどの例題を使って説明しましょう。
例題
ワックス原型をK18で作りたい場合の想定重量は、7.98gでした。
そして、金相場を田中貴金属のサイトで調べたところ、1g/8,800円の価格でした。(2022/6調べ)
18Kで作りたいので、8,800円(金1gあたりの価格)✕ 75% = 6,600(円)となります。
7.98g(K18のキャスト吹き上がり品の想定重量)✕ 6,600円(K18の1gあたりの価格)= 52,668(円)
ワックス原型をK18で作る場合の想定価格は、52,668円となります。
じつは、外注する場合、これで終わりではありません。
この式には、アクセサリーにするための加工賃などが含まれていないのです。
あなたがもしワックス原型をK18にキャストするために外注するならば当然工賃が発生してきますので、この52,668円に工賃を含めなければ本当の想定価格にはならないのです。
この工賃については、あなたが頼む外注さんによって値段も算出方法も違ってくるでしょう。
ワックス原型のおおよその想定価格が知りたいって時の目安計算として、工賃なしの値段52,668円に30%ほど上乗せした金額を見ておくといいでしょう。
(あくまで目安なので、外注先が決まっていれば、その工賃価格で算出してくださいね。)
金やプラチナは、相場の変動が1日毎で変動します。
外注さんに金やプラチナのキャストを頼む場合は、注文時の相場と受け渡し時の相場に大きな変動がある場合もあり、予想していた価格よりも高くなる場合もあります。
番外編
お友達が身につけているSV925の指輪とまったく同じものを、K18で作りたいんだけど?と相談してきました。
そのお友達の指輪の重さを測ったところ、15gでした。
その日の金相場は8,800円です。
さて、その指輪をK18で作り変えた場合の値段(想定価格)はいくらになるでしょうか?
(今回は利益は入れずにそのまま答えてくださいね。)
作り変えたい金属の重さ = 元々の金属の重さ ÷ 元々の金属の比重 ✕ 作り変えたい金属の比重
15g(SV925の指輪の重さ) ÷ 10.4 (SV925の比重)✕ 15.5(K18の比重) ≒ 22.36
この計算も、想定重量自動計算ツールを使ってしまえば、一発で算出できてしまいます。
作り変えたい金属の想定価格 = 作り変えたい金属の重さ ✕ 作り変えたい金属1gあたりの価格(工賃なし)
22.36g(K18の想定重量)✕ 1.03(ヘリ3%)✕ 6,600円(K18の1gあたりの価格) ≒ 152003.28
152,003.28円 ✕ 1.3(30%上乗せ)=197,604円
お友達のSV925の指輪をK18で作ると、197,604円になる。
制作費を割り出す。
材料代(ワックスの重さ×5円)+ キャスト吹き上がり品の想定価格 = 制作費
上記の方法で導き出した想定価格と制作で使った材料費(ワックス代※)を足すことで、制作費を算出することできます。
※ワックス代を正確に求めたい場合は、デザインにする前の切り出したワックスの状態で重さを量ると良い。
型用原型を作った場合の制作費
材料代(ワックスの重さ×5円)+ キャスト吹き上がり品の想定価格 + 型代 = 制作費
型代がプラスされます。
(型代は、ゴム型を作った時にだけ掛かる費用です。)
その業者によりますが、キャスト品の大きさに合わせて型の大きさが変わるため、
ゴム型代(ゴム切りなど加工賃含む)は、型のサイズや種類により価格が変動します。
例)3,000円(小)、3,500円(中)、4,000円(大)など。
ゴム型の種類
焼きゴム(普通ゴム)
金属原型からゴム型を作る場合に利用される量産用ゴム型。
熱と圧力をかけて固めるため、型取りしたものが5%ほど縮みます。
液ゴムに比べ、ゴムの耐久度が高い。
価格も安く、製作日数も早い。
大量生産向きで、通常はこちらを選択する。
液ゴム
ワックスや樹脂など熱に弱い原型からでも作ることができるゴム型。
常温で固めるため、縮みがほとんどないのが特徴。
焼きゴムに比べ、耐久度が劣る。
価格も割高で、製作日数もかかる。
原型と大きさを変えたくない場合などはこちら。