地金でのアクセサリーの作り方の流れと地金で作る上でのメリット・デメリットが刻まれたスキルのかけらである。
このスキルのかけらによって、アクセサリーの作り方の1つ、地金製法の知識を身につけることができる。
実際に彫金を始める前に頭に入れておくべき基礎知識となるので、まだ彫金というものを知らない初心者は、目を通しておくといいだろう。
地金でのアクセサリーの作り方の流れ
シルバーや金やプラチナなどの金属(以下【地金 ”じがね”】と呼びます)で、アクセサリーを作ることを "地金製法" と呼びます。
手に入れた地金は、はじめは板状や棒状などです。
こいつを切り出して、削ったり、曲げたり、叩いたり、くっつけたりして、形を整えていきます。
この作業から様々な形のパーツを作り出していき、そのパーツ同士を組み合わせて、最終的なアクセサリーデザインに作り上げていきます。
そして、宝石を入れるようなデザインのものには石留めを施し、仕上げ磨きをして、アクセサリーが完成します。
これが、地金から作り上げていく大まかな作業の流れです。
地金でアクセサリーを作るには、地金を切ったり・削ったり・曲げたり・叩いたり・ロウ付けしたり・磨いたり・彫ったり・石留めしたりと、様々なスキルを使いこなさなければなりません。
それでは、地金がどうやってアクセサリーになっていくのか、その工程を詳しく見ていくことにしましょう。
地金製法の全行程
step
1作るアクセサリーが「商品」と「型用原型」のどちらとして使うのかを考える
地金から作ったアクセサリーはそのまま商品として使うほかに、型用の原型としても使います。
どちらの使い方をするかで、使用する金属の素材や仕上げ方が変わっていきます。
商品や作品としてそのまま使う場合
使用する金属
好きな素材を使って作っていきます。(シルバー/金/プラチナ/銅/真鍮など)
仕上げ方
石留めがあるものは石を留め、最後の仕上げ研磨までおこないます。
型用原型として使う場合
使用する金属
型をキレイに作るために、使用する地金はシルバーで作ります。
型用として使うアクセサリーは型用原型と呼びます。
仕上げ方
1000番まで磨いておしまいです。型を取るためのものなので石留めや最後の仕上げ研磨はしません。
step
2地金でアクセサリーを制作する
使用する主なスキル
けがく(下書き線を書く)
ステンレス定規や円テンプレートを使い、地金にけがき棒でキズをつけて、下書き線(以下”けがき線”と呼びます。)を入れていきます。
切る(切削)
糸鋸で地金を切り取っていきます。
けがき線に沿ってキレイに切るのは難しいので、ある程度余裕をもった大きさになるよう、けがき線の外側を切っていきます。
削る(輪郭研磨)
ヤスリを使い、けがいた線上まで削って、形を整えていきます。
焼きなまし
指輪を作るならば板状の地金を丸く曲げたり、石留め用のパーツならば宝石がおさまる形に曲げないといけません。
地金はそのままの状態ではものすごく硬く、無理に曲げようとすれば折れてしまいます。
そこで「焼きなまし」をして、金属の硬さをある程度まで柔らかくします。
焼きなまし方
シルバーの地金にバーナーを当てます。
バナーを当てている箇所はだんだんと白みをおび、さらに熱していくと、赤みがかっていきます。
全体が赤みがかったら、水に入れて冷やします。
(熱した地金を冷却することで硬さを低下させることができます。ちなみに鉄は硬さが増します)
これで焼きなましの完了です。
熱し方が不十分だと地金の表面は酸化を起こして黒くなってしまいます。
曲げる&叩く
手の力だけで簡単に曲げられないような硬さのものは、ヤットコを使って曲げていきます。
ヤットコを使っても曲げられないような強度のある形のものは、木槌で叩いて曲げていきます。
その他、金槌で叩き潰して、地金を変形させて理想の形に仕上げていく技法もあります。(鍛金技法:タンキンと呼びます。)
すり合せ
ロウ付けする際に、ロウを流す接合面に隙間がありすぎると、ロウがうまく流れてくれません。
そこで、ヤスリや糸鋸を使って接合面を研磨して、ぶつかり合った面と面が隙間なくピッタリと合うように整えていきます。
これを「すり合せ」と呼び、ロウ付けする前の重要な作業となります。
くっつける(ロウ付け)
削ったり、曲げたりした地金パーツを組み合わせていきます。
組み合わせ方は、
ロウ材と呼ばれる金属片をそのパーツの接合部分に溶かし込んでくっつけていきます。
これを「ロウ付け」と言います。
成形する(下地処理研磨)
鉄工ヤスリ、ペーパーヤスリ、リューター用の先端ビットなどを使って、理想のデザインになるように研磨していきます。
焼きなましやロウ付けしたシルバーは、「ひむら」が出ます。この時点で火むらを取り除いておきます。
型用原型として作る場合はここまでの作業で終わりです。
磨く(仕上げ研磨)
鏡面・つや消し・いぶし仕上げなど、様々な仕上げ加工をしてアクセサリーを仕上げていきます。
宝石を入れる(石留め)/彫る(彫りデザインを入れる)
石留めのあるものはこの時点で宝石を留めていきます。
タガネを使って彫りデザインを入れていきます。
作るデザインによって、作業の順番は前後したり、同じスキルを繰り返す場合があります。
地金原型からの量産の流れ
作ったシルバーアクセを型用の原型として使い、「ゴム型」を取っていく工程です。
step
2B型取りする
型取りの準備
表面を1000番まで磨いた状態のシルバー原型に、湯道という金属棒と金属の三角錐を取り付けます。
原型を埋め込む
アルミの型枠にシリコンゴムを敷いて、その上に湯道付きの原型をセットします。
そして、原型をサンドイッチするようにシリコンゴムを被せます。
シリコンゴムを焼き固める
ホットプレス機にアルミ型枠を挟んで熱と圧力をかけて、シリコンゴムを焼き固めます。
プレス後、アルミ型枠を冷まします。
ゴムを切り開く
アルミ型枠から原型入りのゴム型を取り外し、三角錐を外します。
ゴム切り用のメスを使って、ゴムを上下2つに切り分けていきます。
デザインが複雑になればなるほどカットが難しくなります。
切り分けたシリコンゴムから原型を取り外してまた重ね合わせたら、原型を忠実に再現したゴム型の完成です。
ワックスを流し込む
ワックスポットという機械を使って、ゴム型にワックスを流し込みます。
ワックスポットの射出口に、ゴム型の三角錐の穴部分を押し込むと、勢いよく液状のワックスがゴム型内の空洞に流れ込みます。流れ込んだワックスは、すぐに冷めて固まります。
ゴム型を開けて抜き取れば、ワックス原型の完成です。
同じように、ゴム型にワックスを流し込む作業を繰り返せば、いくつでもワックス原型が複製できます。
ちなみにゴム型を作るために使った原型は、ゴム型が劣化した時にまた同じ原型のゴム型が作れるように大切に保管しておきましょう。
鋳造(キャスト)する
同じ素材で同じデザインのアクセサリーを量産したい場合は、複製したワックス原型たちをこのようにツリー状に並べれば、まとめて何個も鋳造(キャスト)できる鋳型が作れます。
例えばこの鋳型にシルバーを流し込めば、同じデザインのシルバーアクセサリーが量産できるというわけです。
金やプラチナを流せば、その素材のアクセサリーが量産できます。
ゴム型さえ作ってしまえば、個数も金属素材も自由に量産することができるようになるわけです。
step
2B石留め・仕上げ研磨
あなた自身がやるべき作業専門の業者さんに任せてもよい作業
※デザインや予算によっては、専門の業者さんに任せてもよい。
鋳造のままでは指輪の表面はザラザラなので、まずはバレル研磨をしていきます。
そして、その指輪の最終的な仕上り状態になるまで研磨を繰り返して、商品としてのクオリティーに仕上げていきます。
石留めのあるデザインは、仕上げ研磨後に石留めしていきます。
地金で作る上でのメリット・デメリット
メリット
- 直線、平面などのシンプルなデザインのものを作るのに適している技法です。
- 美しく確実に留まる石座や石枠など繊細かつ精巧な石留めデザインのアクセサリーを作るのに適している。
- 地金を直接加工するため、作り上げたものはそのまま商品や作品として使うことができます。
- 作ったものがそのまま型用原型になるため、キャストにより地金が縮む誤差が最小限におさえられる。
(精巧さを要する宝石ありのデザインを作る場合には、石座の縮み具合の予想が立てやすくなる) - 制作日数がワックスに比べてかからない。
デメリット
- 個人差はありますが、スキル(石留め・研磨・ロウ付けなど)の定着までに時間を要する。
- 技術の差が仕上がりにハッキリと出てしまう。
- 切り過ぎ、削り過ぎ、ロウ付け・石留め失敗など、場合によってはやり直しができない。
- 彫金工具を揃える初期費用がワックスに比べてかかり、必要最低限の道具が揃わないと何も作れない。
- デザインにより、削る・叩くなどの金属音が出るため、集合住宅に住んでいる場合は防音の配慮が必要となる。
地金製法を覚えるためのアドバイス
地金製法は、切る・削る・曲げる・叩く・くっ付ける・成形する・仕上げる・宝石を留める・彫る、この9つのスキルを極めていく。
しかし、ただ個々のスキルを覚えればいいってものでもない。
スキルを覚える以上に大切なことは、「覚えたスキルの中からどのスキルをチョイスして、それをどんな手順で使えば、思い描いたデザインに完成させることができるのか」
作り方の段取りが組み立てられないといけないのだ!
しかも、一つのアクセサリーを作るにしても、何通りもの作り方が存在する。
商売として考えるならば、その中から時間(納期)や費用・作りやすさを考慮したもっとも最適な作り方を導き出さなければならない。
しかし、様々なアクセサリーを作ってきた経験則を持っていないと、最適な作り方を選べるほどの作り方のレパートリーは生まれてこないのだ。
トライ&エラーを繰り返しながら独学で地道に模索しながら経験を積んでいくのもいいでしょう。
地道な道のりになるが、とにかく失敗を恐れず、実践・実践の繰り返しをしてください。
もっと効率的に経験を積みたいのであれば、実際に今も使われているノウハウやテクニックを身につけた経験者からアドバイスをもらい、修行を積んでいこう。