第6話 感覚よ、覚醒せよ!
今日もまたデラックス先生が教室にやってきた。
相変わらずドアを通るのが窮屈そうである。
デラックス先生
「ふぅ~やれやれ、皆さんどうも。」
「今日はもずく先生、所用のためお休み~、ワタシが代わりで~す。」
「さてさて、前回配布された糸鋸のコンテンツやってみましたか?」
生徒たち
「直角に切るのが難しいかったで~す」「まっすぐ切れないよ~」
ユフィリー
「糸鋸の刃が何本あっても足りません!」
デラックス先生
「そうよね~地金はワックスのようにはいきませんからね。」
「獰猛で力任せだったあの頃のワタシも、ポキポキ折ってましたね~。これまで数え切れないほどのノコ刃の墓場の山を築いてきましたよ。」
「心が何度も折れそうになりながらも、それでもめげずに糸鋸を引いたものです。」
「誰もが通る道です。損せぬ人に得はなし!バッキンバッキン折っていきましょう!」
損せぬ人に得はなし
損害を恐れているようでは、商売人としての資格はなく、ある程度の損失を覚悟しなければ、大きな利益を上げることはできぬことをいう。
ユフィリー
「あの~先生!」
デラックス先生
「あはははは・・・冗談ですよ。折れないに越したことはありません。」
ユフィリー
「いえ、ちょっと質問なのですが・・・」
デラックス先生
「な~に?」
ユフィリー
「けがき線に沿って切ろうとすると、慎重になりすぎて、切るまでに時間がかかり過ぎちゃうんですよね。なにかスムーズに切るためのアドバイスありませんか?」
デラックス先生
「そうね、けがき線どおりに正確に切っていくためには、集中力とリズムが必要ね。」
「切りたいところまで集中して一気に切り込んでいく。そして、休む。そして、集中切り。そして・・・休む。」
「リズムを刻んで切ることが大切よ。ワタシはよく歌いながら切ってるわ。」
「ちなみに曲はね~」
デラックス先生はすぅ~と息を吸い、歌いだそうとした。
ユフィリー
「あっ!先生。それは大丈夫です。」
デラックス先生
「そうなの?・・・じゃあ一つね、上達スピードがアップする極意を教えてあげようかな。」
ユフィリー
「聞きたいです!」
デラックス先生
「森のクマさん?」
ユフィリー
「はい!?」
デラックス先生
「曲」
ユフィリー
「いえ、極意のほう」
デラックス先生
「極意?・・・」
ユフィリー
「そう極意」
デラックス先生
「曲?・・」
ユフィリー
「じゃなくて極意です。」
デラックス先生
「極意ね」
未練ありげにそう言うと、
「極意はね『やり過ぎの限界値を知ること 』よ。そして『基準を作る』の。」
「初めは失敗しても構わないから、とにかく切り過ぎちゃうのよ。」
「これも、損して得取れ!ね。」
「切り過ぎた感覚を知ってしまえば、その感覚を基準にできるの。」
「あとは、その基準をもとに調整していけばいいだけ。」
「『ここまでやっちゃったらマズイから、このへんまでが限界なのかな』みたいにね。」
ユフィリー
「なるほど。やり過ぎの限界値が基準になるってことですか~」
デラックス先生
「でもね、人間は機械じゃないからさ、感覚のズレってもんを持っているのよ。」
「感覚のズレっていうのはね、頭では『まっすぐ切り進め!』って体に指示を送ったつもりでも、実際の体の動きの結果は斜めに切ってしまっている。」
「そして、何度やっても同じようになってしまうのよ。」
「これが、感覚のズレってやつ。」
「感覚のズレの幅は、小さい人もいれば大きい人もいるわ。」
「この感覚のズレって直すのが大変なのよ!今までその感覚で生きてきちゃってるからさ。」
「だからワタシは感覚のズレを直そうとする前に、『己の感覚のズレ幅を知り、受け入れなさい!』って言ってるの。」
「単純な話、自分の思い通りに切れればいいんだからさ。」
「さっき、基準を作れって言ったでしょ。」
「例えば、このアカデミアで教えている切り方を基準にするわけよ。でも、その通りやろうとしてもズレるわよね。」
「でもこれでね、自分の感覚のズレ幅がどのくらいなのかは確認できる。」
「あとはそのズレ幅をああでもないこうでもないと修正していくわけ。」
「時間は必要だけど、繰り返しトライ&エラーしていくうちに、頭で考えなくても体が勝手に感覚のズレを見越した動きをしていくようになるの。」
「これをワタシは、” 真感覚の覚醒 ”と呼んでいる。」
「真感覚が身につけば、思い描いたとおりに、しかもスムーズに切れるようになっていくはずよ。」
「これは糸鋸スキルだけじゃなく、すべてのスキルに通用する感覚なのよ。」
デラックス先生
「さて、今日はさらに糸鋸スキルをアップしてもらうための動画を一つ、もずく先生から預かっております。」
「この糸鋸テクニックをマスターすると、作る作品のクオリティーが一気に上がります。このテクニックがプロと素人の差を生んでいると言っても過言じゃありません。」
「糸鋸スキルの中で最重要となるテクニックなので、しっかりと覚えるようにね。」
実践課題
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